American Wine Journey::カリフォルニアワイン、アメリカワイン紀行ブログ

Anderson's Conn Valley "Eloge" 1998 Napa Valley

 

カリフォルニアでもあまり聞かない作り手。日本では話題にもあがらない。

しかもヴィンテージは、エルニーニョに悩まされた1998年。評論家の評価も低い。

しかし・・・、結構なお値段・・・。

知らなければ手を出せるワインではない。

 

Napa Valleyにいた頃このワインを一度だけ試飲した事がある。ヴィンテージも同じ98年。

もう6年以上前になる。

 

毎週金曜日の朝10時にPatz & HallというNapa Valleyにあるワイナリーに集まってブラインドティスティングを

する勉強会があった。地元のソムリエが中心の会だが、たまにここのワインメーカーも参加してテクニカルな話しなどを

聞かせてもらい非常に勉強になる会だった。

 

そこでこのワインと出会った。

 

熟したカシス、ブラックベリーの果実の香りに加えシガーボックスや枯葉、スーボワと複雑な風味。カリフォルニアなどの新世界のワインはこの複雑な風味が少なく、熟したフルーツの風味一辺倒になるケースが多い。

 

これは間違いなく旧世界だ!

 

口中でも新世界には通常見られない存在感のある酸味、タンニンの骨格、高すぎないアルコール度数(13度台)など、どれをとっても旧世界のワイン。

 

ここまでくればもうボルドーとしか思えない。

 

しかも、この凝縮感に香りの華やかさ、2級であってもおかしくない!

 

自信たっぷりでボルドーの2級レベル、と答えた。他のソムリエ達も同意見。話しはどのシャトーか、というところまで進んでいた。

 

しかし、Auberge du Soleilのヘッドソムリエであるクリスがボルドーだと思い込んでいる我々に問い始めた。

 

この酸のレベルに対して果実の熟度が高くないか、この熟成度合いに対してNon Fruit Flavors(フルーツ以外の風味)の割合がやや小さくないか。最近流行りのNapa Valleyのカベルネに無い要素が多いが、これはNapa Valleyのカベルネだ。ただし、流行りのモダン派ではなく伝統派の作り手。90年代のStag's Leap Wine CellarsかChateau Montelenaに似ている。ただ、凝縮度合いが中間的だ。ならば地理的にも中間的と言えるAnderson's Conn Valley。このぐらいの熟成度合いからして、このややグリーンな要素が見られた年は98年だけだ。

 

圧巻だった。Napa Valleyのソムリエとして30年以上のキャリアに裏打ちされた分析力。さすがとしか言いようがない。

シガーボックスや枯葉の香りを見つけた瞬間に"ボルドー!"と決めつけてしまう未熟さを情けないと悔しさを

噛みしめつつ、最高の指導者とめぐり合い間近でカリフォルニアワインについての知識を享受できる恵まれた環境を誇らしく思った。

 

それから6年。月日も流れたが場所も何千マイルも西の東京だ。

 

抜栓し少し時間をおいてから口に運んだ。

 

以前よりシガーボックスの風味が更に増しよりボルドーに近い味わいになっている。しかし、その奥に隠れている果実の熟した甘さ、カリフォルニアの太陽が感じ取れる。

 

これはボルドーではない。

 

凝縮感のある甘い果実味、複雑さを加えるシガーボックスや枯葉、バランスのよい酸とタンニンからなる凛とした骨格、延々と続く余韻。

これぞ古き良き時代のNapa Valleyのワインだ。そして、6年の月日を経て、自信を持ってそう答えられる。

 

このワインを"My" Wine of The Yearに迷うことなく選んだ。

 

品評会など、客観的な分析による評価であれば・・・、他のワインを選んだかもしれない。特に今年は素晴らしいワインを多く飲む機会に恵まれた。

 

しかし、最後に心に残ったのは・・・、このワインだった。

 

飲んだ瞬間にさまざまな想い出がクリスの顔と共に思い浮かんだ。もしかすると、とても客観的に分析などはできない心情、主観的な感情に陥っていた事がこのワインを選んだ原因かもしれない。

 

ちょっと公正さに欠ける結果になってしまったが・・・、ただ、ワインとは元来そういうものだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソノマ郡の北にHealdsburg(ヒルズバーグ)という小さなダウンタウンがある。この街にはファーストフードやチェーン展開をしている店がほとんどなく、もう一つのアメリカをごく身近に感じられる。

 

とは言え、南部で見かけるカウボーイがサッソウと入ってくるような荒々しいバーが乱立しているのではなく、逆に、落ち着いたカフェやレストラン、小さく拘った雰囲気のあるブティックなどが並び、そこのオープンカフェでコーヒーを飲みながら通り過ぎる人たちを眺めていると、何もしていない事に充実感を覚え有意義な時間を過ごせる。何かしていないと時間の無駄だと感じてしまいやみくもにPCを取り出してしまう都会のカフェとは正反対だ。

 

さて、そのHealdsburgでブランチを楽しんだ後にほんの少し車で北西に進むと、のどかなワイン産地に入る。そこがDry Creek Valleyだ。

 

両側を山に囲まれ、中央にワイン畑が広がる風景はどことなくNapa Valleyに似ているとも言えるが、実にのどかであり、観光客とそれを迎える観光化された大規模なワイナリーがひしめくNapaとは趣を異にし、むしろ日本の田舎の田園地帯を思い出させる。

 

気候的にはやや涼しいと言えるが、ちょっと南でPinot Noirで有名なRussian River Valley(ルシアン リヴァー ヴァレー)程ではないし、霧の影響はほとんど受けない。

 

だからと言ってCabernet Sauvignonが熟す程温暖でもなく、育つには育つが特筆に値するような代物はあまり作られていない。Zinfandelで有名なRafanelliも作っているが、Napaのものと比較するとよりフレッシュな果実味があり、かつミントやユーカリの香りが感じられる事からボルドー好きにも勧められる。

 

ただ、やはりこの地を代表するブドウは何といってもZinfandelだろう。そして、この地の作り手達がもっとも誇りを持っているブドウ品種だとも言える。

 

スタイル的には、濃厚で樽の風味が強くアルコールが高くアピール性があり高級感をかもし出し、ワインショップでもれなく高得点ポイントの札が桁違いの値段を無理やり正当化させるために艶やかに飾られた流行りのZinfandelとは一線を置く。

 

また、近くのRussian River Valleyで取れるZinfandelの様な、Pinot Noirに共通するエレガントさを持つわけでもない。

 

柔らかく滑らかなテクスチャーはお隣のAlexander Valleyと共通するが、一本筋が通っておりそのバックボーンを滑らかな果実味が覆う。その果実味もZinfandelらしくジャムっぽさはあるが、もっと暖かい産地のZinfandelの煮詰めたような甘さを主張するものではなく、フレッシュさも同時に感じる。ちょうど新鮮でみずみずしいベリーにほんの少しラズベリーのクーリ(ピューレ状のソース)をつけたような印象を受けるだろう。

 

収穫時期を遅くし濃厚に仕上げ新樽を使いアピール性を高めようとする派手な作り手はごく稀であり、良い意味で田舎臭さが伝わってくるワインだ。

 

様々な生産者がいてそれぞれ個性豊かだがこのDry Creekの個性は皆な共通している。

 

David Coffaro、 Lambart Bridge、 Nalle、 Rafanelli、 Pezzi King、 Preston、 Quivira等など・・・。

 

全て車ですぐ回れる距離にあり、味の印象を忘れる前に次ぎのワイナリーに行けるから、比較テイスティングには最適だ。どこも豪華なテイスティングルームなどないが、素朴だが趣のある雰囲気はどことなく近くのダウンタウンHealdsburgと共通しており、それがワインのスタイルの表現そのものにもなるから面白い。

 

上記のワイナリーのZinfandelは、大体が日本でも入手は可能であり、そうでないものでもアメリカの大都市に行けばお目にかかれる。ただ、その素晴らしさがちゃんと伝えられていないのか、あまり人気のあるワインではないようだが・・・。

 

特筆すべきは、この地元に行かなければなかなかお目にかかれることはなく、Napa Valleyで働いていた時でさえ簡単には手に入らなかったワインがある。Napa Valleyで働くソムリエでさえ認識できたのはごく一部で地元密着型のワイナリーだと言える。

 

ただ、地元での評判は他の追随を許さず、どのワイナリーに行っても、"必ず寄って行きなさい!!!"と勧められる。

 

Bella(ベラ)というワイナリーで、まさにDry Creekの秘宝と言えるだろう。

 

このワイナリーを訪れた時にじっくりとテイスティングしたが、まさにその味わいは、前述のこのDry Creekの個性を忠実に表しており、更に透明度が高くより鮮明に口中でテロワールが大きくこだまする。

 

前回紹介したSausal(ソーサル)と飲み比べればそのテロワールの違いを明らかに感じる事ができるだろう。また、流行りの高級Zinfandelと比べれば、このブドウ品種に厚化粧は必要ない事をまざまざと見せつけられる。何とか東京で再会したいものだと常々願ってはいるが未だにお目にかかれない。非常に残念だし思い出すと懐かしさでいっぱいになる。

 

東京のスタバに入れば、都会の喧噪を一瞬忘れさせてくれる錯覚を起こす。一瞬癒されるがまたすぐに現実に帰る。それはスターバックスというトップ企業により計算され尽くされ作り上げられたオアシスだからかもしれない。ありがたいが都会ではこれが限界だろう。

 

しかし、Healdsburgの小さなカフェでは、駆け引きのないピュアで透き通った飾り気のない美しさが心を優しく包んでくれる。

 

ふとそのカフェが東京にあったらと思う時もあるが、もしかしたら、この大都会では物足りなく感じてしまうのではとも感じる。

 

そして、それがこのBellaという駆け引きのないピュアなZinfandelに東京という都会でお目にかかれない理由なのかもしれない。

 

ブログを書くのは・・・、半年以上ぶりです・・・。

 

かなりサボってました・・・。

 

言い訳ですが・・・、ワインの試験とソムリエコンクールを受ける為に空いている時間は全てワインの勉強に充てておりました・・・。

 

ただ、お蔭さまである程度満足のいく結果を残せたと思います!

 

まず、Court of Master SommelierのAdvanced Sommelier試験に合格しました!

これは、もともとイギリスの団体ですがアメリカにも同団体がありどちらの国でも受けられます。

 

4段階の試験があり、最後の試験に合格すればMaster Sommelier (MS)になれます。

 

今回は3段階目の試験でした。次の最終Master Sommelier試験は2013年!

何とか合格できるように頑張ります!

 

そして、第6回全日本最優秀ソムリエコンクール。初めてのコンクールへの挑戦でした。

Master Sommelierの為の勉強は何年も前から継続して続けてましたが、コンクールへ出たことはありませんでした。

 

機関誌ソムリエで、"座談会"という題名で、阿部さん、石田さん、佐藤さん、中本さんといった日本を代表する

ソムリエ4人がコンクールへ挑戦する事の意義を語っていたことに触発された事、39歳という自分の年齢を考えると最後のチャンスかもしれないと思った事、そして、座談会でも触れていましたが、挑戦する事にデメリットは何一つないという事、が申込書が自宅へ届いた時に思い浮かび、挑戦することに決めました。

 

結果は準決勝進出で終わりましたが、会場の名古屋のホテルで日本中のソムリエ、また上記のトップソムリエを含めた日本を代表するソムリエとも出会い、多くの刺激、エネルギーを得られた経験は何事にも代えがたい貴重な財産となりました。

 

残念ながら、決勝には出られませんでしたが、勝ち負け以上に得られた事は大きかったと確信してます。4人のトップソムリエが話していたコンクールへ挑戦する事の大きな意義をこの経験を通して再認識できたと思います。

 

・・・・・、というのがブログをサボっていた理由ですが、これからは月に一回のペースでアメリカのワイン産地を紹介していこうと思います。

 

えーっと、ナパヴァレーを抜けて、ソノマの北、Alexander Valleyに入ったところでした。では、次回はその隣のDry Creek Valleyを紹介します!非常に懐かしい街、Healdsburgが近くにあるワイン産地です!・・・、また長いブログになると思います。早い時間に書き始めよう!

熟成するワインが素晴しいワインだ、もしくは素晴しいワインは熟成する、という偏った概念がワイン界には根強く存在する。

 

ただ、私の素晴しいワインの概念は、"他の場所では造りえない独特の個性を持つワイン"であり、熟成するかどうかは問題ではない。

 

熟成した上質のボルドーは素晴しいワインだ。しかし、それは熟成するからではない。他の場所では造りえない独特の個性を持つからであり、それを呈するのに"熟成が必要"なだけである。

 

言い換えれば、熟成せずにあの独特の個性が出たとしても、それは素晴しいワインと呼ばれるに違いない。

 

さて、前置きが長くなったが、今回紹介したいワイン産地は、Alexander Valley(アレキサンダー ヴァレー)というSonoma郡のAVAだ。

 

ほとんどの観光客は、Napaの29号線を北に進み、Napa最北のダウンタウンCalistoga(カリストガ)にぶち当たった時点で、さもここが最終地点であるかのようにUターンしてしまう。

 

ところが、29号線を更に北に進み、128号線に名前を変えたその道を30分ほど進み山を一つ越えただけで、観光化されたナパとはまったく様相を異にするワインカントリーの姿を垣間見る事ができる。

 

のどかに流れるRussian River(ルシアン リヴァー)の両岸になだらかにワイン畑が連なり、その川ののどかな流れそのものを移しこんだような、優しくなめらかなワインを産する。

 

様々なブドウが栽培されているが、この地の特徴を鮮やかに表現しているのはCabernet Sauvignon(カベルネ ソーヴィニオン)と、Zinfandel(ジンファンデル)だろう。

 

共通していえる個性はその"滑らかさ"にある。だからと言って決して線が細くよわよわしい訳ではない。また、果実の凝縮感はあるが丸みのあるタンニンのお陰でNapaのワインの様な攻撃的なアタックを感じることもない。

 

Napaではその力強いタンニンをどうやってまろやかに仕上げるかが大きな課題であるのに対し、このAlexander Valleyではまずその心配が要らない。

 

前者が野生動物で後者が飼いならされた動物だ、と私のナパヴァレー時代の上司のソムリエがよく言っていたことを思いだす。

 

ただ決してネガティヴな事ではなく、肯定的にこれはAlexander Valleyの個性と捉えるべきだ。

 

この地の代表的な作り手である、Robert YoungのScionというカベルネのブレンドやSimiのReserveはその個性をありのままに表現しているワインだと言えるだろう。

 

ただ、これらのワインはそのなめらかなタンニン故に長期熟成はあまり期待できない。

 

では、これらは素晴しいワインとは呼べないだろうか?

 

そんな事は決してない。

 

ここで冒頭の定義に戻るが、素晴しいワインとは他の場所では造りえない独特の個性を持つワインだ。

 

この個性は他の地ではまず出てこない。

 

NapaのStags LeapはNapaの中で最も女性的でありなめらかなテクスチャーを持つが、中心に硬い芯がバックボーンとして走っている点において趣を異にする。

 

まだ紹介していないが、もっと南のPaso Robles(パソ ロブレス)のカベルネもなめらかではあるが、もっと果実味が濃密になりAlexander Valleyの上品ななめらかさとは性格が異なる。

 

つまりこのデリケートななめらかさはこのAlexander Valley特有のテロワールから来る個性だと言えるだろう。

 

ソノマの北部に位置しかつ内陸にある為、海風や霧の影響を受けにくい。その為平均気温はもっと内陸のナパの北部とさほど変わらない。では、ナパのカベルネと同じぐらいの凝縮感がでてもよいのではないか?

 

大きな違いは、Alexander Valleyの土地はかなり肥沃な所が多いという点だ。その為樹勢が強く、かなりシビアにプルーニング等を行わないと出来上がったワインはかなりベジタルな味になるだけでなく、タンニンの骨格の全くない弱弱しいワインになってしまう。

 

ただ、生産量を抑え、樹勢をコントロールしブドウを十分に熟させる努力を惜しまなければ、ナパのカベルネと変わらないぐらいの熟度のある果実味を得ることができる。ただナパとの大きな違いは、タンニンのやわらかさとそれによる触感の滑らかさだ。

 

また、この個性はカベルネだけでなくZinfandelにも共通しており、あまり知られていないがSausalという作り手の樹齢100年のReserveには、ブドウ品種が異なるにもかかわらず、上記のSimiのReserveやRobert YoungのScionに共通した上品でデリケートななめらかさが存在する。

 

これらのワインはボルドーの様な長期熟成はしない。リリースされて間もなく、もしくは数年でこの素晴らしい他の地では作り得ない独特の個性を綺麗に呈してくれる。

 

ならば熟成させる意味などない。熟成させると個性が消えて無くなるなら若いうちに飲んだ方がよい。逆にボルドーの上質なワインは、若いと個性が見えないから熟成させた方がよい、と言える。

 

熟成するから素晴しいワインなのではない。

 

これらAlexander Valleyの素晴しいワイン達は、たまたま熟成を必要としないだけだ。

 

Napa Valleyを訪れる観光客の中で最も野心的な人であっても、Pritchard Hillで有名なChappelletというワイナリーを訪問したら、帰り際に近くのヘネシー湖を眺めながら軽く休憩し、また来た道を戻りNapa Valleyの中心地のワイナリー、もしくはレストランを目指すのが普通だろう。

 

だが、来た道を戻らずに128号線をずっと東に進むと世界が一変したかのような風景を目の当たりにする事ができる。

 

29号線の賑わった雰囲気やシルヴェラード トレイルの洗練された優雅さなどは皆無だ。人影もほとんど見られず実にひっそりとした素朴さだけが感じられる。ワイナリーはあることはあるが、OakvilleやRutherfordのように、自然に視界に入ってくることはない。ただただブドウ畑が広がるのみで、ほんの数マイル西のNapa Valleyの中心地より、日本の田舎の田園地帯の方が共通性を多く見出せる。

 

そこがChiles Valley(チャイルズ ヴァレー)と呼ばれるNapa Valley東端のワイン産地だ。

 

内陸に位置することから冷たい海風の影響は受けにくいが、平地の部分であっても標高が高い為全体的にNapa Valleyの中心地よりも平均気温は低い。周りは山で囲まれている為夜には冷えた風が吹き下ろし、明け方には遅れてナパ名物の冷たい霧が到達するため気温の上昇がNapa Valleyの中心よりも遅くなる。

 

気候的にはカベルネにも適していると言えるが、ここを代表するブドウはジンファンデルだろう。Brown Estateの濃厚なスタイルはNapa Valleyの中心のライバル達とも引けを取らない現代風な味わいだが、Green & Redのジンファンデルは、黒コショウなどのスパイスの風味にバランスの取れた酸、フレッシュさを感じられるブルーベリーの風味など、より涼しい気候を反映したスタイルでここのテロワールを感じる事ができ、多少田舎臭い味わいだがより親しみが感じられる。

 

ワイナリーの数は少ないが、Nicheliniなど19世紀から存在するワイナリーもあり歴史は長い。そのほかにも、Green & RedやVolker Eiseleなど1970年代に作られたワイナリーもあり、Napa Valleyの中心地と変わらない歴史を誇る。

 

質の面でもBrown EstateのカベルネやジンファンデルなどNapa Valleyの中心のワインと比べても決して引けを取るものではなくもっと追随するワイナリーが増えてもよさそうなものだ。

 

ただ、既存のどのワイナリーのどのワインを見ても、"Chiles Valley"という自分達のアペラシオンをラベルに記載しているものはない。商売を考えれば、誰も知らないこのアペラシオン名よりも、ブランド的地位を確立した"Napa Valley"とラベルに書いてあるほうがマーケティング効果の大きい事は周知の事実だ。このアペラシオンを作る為に先頭を切っていたGreen & Redでさえもこのアペラシオン名を使っていない。

 

この地を訪れてワイナリーの人達と話をすると、Chiles Valleyの魅力を誇り高く熱く語ってくれる。

 

Napaのお隣のSonomaのワイナリーの人達も同じぐらい自分達の土地に誇りを持っているが、Chiles Valleyの人達との大きな違いは、"SonomaはNapaとは違う、"と強調する点だ。

 

一方、Chiles Valleyの人達は、"自分達はNapa Valleyの中心と同じだ、Chiles ValleyはNapa Valleyの一部だ、"と強く主張する。

 

Chiles Valleyは山を隔てて東側に位置するが、その為、Napa Valleyの中心の人から見れば"よそ者"的な目で見る傾向がある。

Sonomaも、逆側だが、Napaと山を隔てて位置する。しかし、アペラシオン上は別の土地である事から自然とライバル心が生まれ、Napaとは違う事に誇りが出てくる。

 

しかし、Chiles Valleyはアペラシオン上ではNapa Valleyの一部だ。ところが、Chiles Valley内の人達以外はそうとは思っていない。どこかよそ者扱いをされがちだ。

 

境界線を挟んでその違いをIdentity(アイデンティティ)として誇りを持ち続けているSonomaと、その違いは境界線を引くに値しないとしてNapa ValleyのIdentityと同化する事を求めるChiles Valley。

 

Napa Valleyが世界的に有名になる30年前まではその様なあつれきは存在しなかったのではないだろうか。あったとしても現在のそれとはスケールが異なっていたに違いない。

 

Green & Redの素朴さが感じられるジンファンデルを飲むと、Chiles Valleyの田舎臭い親しみ深さが心地よく感じられる。ならば、Chiles Valleyを全面に押し出せばよいのではないか、と短絡的に思ってしまう。

 

しかしそれは、東京の都会人が田舎の観光地を訪れた時に直面する田舎の不便さについて、"のどかでいいですね、"などと地元の人達に話す時と同じぐらい無意味な優越感から来るのんきに平和ボケした感覚なのかもしれない。

カリフォルニアのワイン産地はAVAと呼ばれフランスのAOC(原産地統制名称)に類似する。しかしながら、それほど厳格に規定されておらず、批評家達の格好の餌食、又は酒の肴となっており、AVAの説明文を読む事は、あら捜しが好きな人にはとってもお勧めの暇つぶしだ。

 

先のブログでも軽く触れたが、AVAとして単独のワイン産地を名乗るほど卓越した個性のない産地も少なくない。また、それとは逆に中にはAVAとして独立したアぺラシオンを持つべきなのに持たない産地もある。

 

後者の代表格がPritchard Hill(プリッチャード ヒル)だろう。

 

Napa Valley(ナパ ヴァレー)の東側を走るSilverado Trail(シルヴェラード トレイル)という道路を北に進み、128号線とぶつかる交差点を右に進む。

 

穏やかに登るこの曲がりくねった道を進めば左手に大きな湖が見えてくる。

 

Lake Hennessey(ヘネリー湖)と呼ばれる湖で、ナパ市民に供給する水源となっている。その湖を背に向けると、目の前に大きな山が立ちはだかる。それがPritchard Hillだ。

 

ナパの内陸に位置する為、本来なら平均気温は高く質の高いブドウを作るのは難しいはずだが、高度とヘネシー湖の影響、またときおり吹き寄せるソノマからの涼しい風により酸を維持し、ブドウをゆっくりと熟成させる。特にカベルネの生育には非常に適したメソクライメットと言えるだろう。

 

また土壌は主に火山性であり、土というより特大の岩が地中にゴロゴロと、場所によっては隙間なく埋まっている。ポルトガルのポートワイン産地、ドウロ川流域を彷彿とさせる光景だが、同様にダイナマイトとブルドーザーを使って山を切り開きブドウを植える作り手も見られる。この水はけが極めてよくかつやせた土壌である為収穫量は低く凝縮感のあるブドウが生まれる。

 

もともとブドウ栽培地として注目されておらず、ここを有名にしたのは1967年に創設されたChappellet(シャペレ)というワイナリーだろう。

 

当時存在しなかったコーヒー用自動販売機を初めて開発し富を得たが忙しいビジネスライフから逃れゆっくり人生を過ごす為にそれに合った土地を求めていた。そして、辿り着いたのがここナパヴァレーだった。

 

1960年代の後半でまだ"山"のブドウの価値は知られておらず、ブドウ畑といえばほとんどが平地で、誰も好き好んでこんな山のテッペンで岩だらけの土地などに興味を持っていなかった。だが、このChappellet夫妻は、当時最も尊敬されていたBeaulieu Vineyard(ボーリュー ヴィンヤード)の伝説的ワインメーカーAndre Tchelistcheff(アンドレ チェリステェフ)の助言を信じ、(また成功した先駆者に共通する"感"によって)、このヘンピな山にワイナリーを構える事に決めた。

 

その後の名声は説明するに及ばずだが、Chappelletの成功によりこの地の価値が認められ後にここからカルトワインも作られるようになった。

 

Bryant Family(ブライアント ファミリー)、Colgin(コルギン)のIX Estate(ナイン エステート)、David Arthur(デーヴィッド アーサー)のElevation 1147(エレヴェーション 1147)などが良い例だろう。最近では、Ovid(オーヴィッド)というモダンなワインが注目を集めている。

 

これらカルトワイン達は数がかなり限定されており、かつ値段も途方もない事からなかなか飲むどころかお目にもかかれない。

 

だが、この先駆者であるChappelletの"Pritchard Hill"と呼ばれるプレステージクラスのカベルネなら、決して安くはないが、カルトワインの数分の一の値段で、まったく遜色のない(私個人の意見では、それ以上に)高い質を披露してくれる。その下の"Signature"というカベルネでも十分にこのテロワールを手軽に楽しむことができる。

 

これ見よがしの迫力を演じるタイプではないが、"山"のワインらしく力強いタンニンによる骨太なストラクチャーが中心を走り、その周りを凝縮感のある果実味が包んでいるが、ヘネシー湖やソノマからの冷たい風のお陰でその果実はフレッシュさを保ち、且つ、そのブドウを"クールダウン"させる要素のお陰で長い生育期間が取れタンニンも熟しきめ細かい舌触りとなる。

 

ちょうどHowell Mountain(ハウエル マウンテン)とStags Leap District(スタッグス リープ ディストリクト)を足して二で割ったようなスタイルと言えるだろう。地理的にもその理論が成り立つ。

 

このChappelletのワイナリーを訪れると、ブドウ畑以外は林がそこかしこに見られるのみだ。それ以外は山を切り開いた後に残る岩がゴロゴロと山の側面に見られる。おそらくこの夫妻が初めてこの地を訪れた時はほとんどがこういう風景だったと想像する事は容易であるが、そこにブドウを植え一生をそこで暮らそうと決める決断力は想像を絶する。

 

自動販売機という当時は革新的な商品で富と名声を築いたCheppelletという先見の明のあるビジネスマンだからこそ成し得た偉業だとも思える。

 

また、お金と労力を使い"意味のないもの"を得るなどという費用対効果の悪い事に手を出さない事も、(例えばAVAを取得する、など)、一流のビジネスマンが故と言えるかもしれない。

 

AVAってなに、という質問をよく受ける。

 

簡単にいえば、アメリカの認定されたワイン産地であり、フランスのAOCに相当すると言える。(ただ・・・、似て異なるものだが・・・)

 

これは、TTB(Alcohol and Tobacco Tax and Trade Bureau)というお役所が管理している原産地統制呼称制度(・・・のような物・・・)だが、実はそれほどお堅いものではない。

 

TTBのホームページを見てみると、AVAを取得する為の条件がこと細かに書かれているが・・・、現実は(少なくとも私の知る限りは・・・)そこまで難しいことではない。

 

では、どうすればAVAが取得できるのか???

 

まず、自分が所属するワイン産地が特別なものである、とTTBに申請する。

 

そこで反対者がいなければ、VOILA(ヴォワラ!)、
めでたくGET!

 

えっ、そんなもの???

 

法律の専門家は否定するだろうけど・・・、平たく言えばこの程度。

 

では、反対者が出たら認定されないのか?

 

必ずしもそうではない。

 

だいたい反対者はそのAVAの境界線ギリギリに畑を持っていて仲間外れにされた連中がほとんど。

 

もしその連中を仲間に入れてもいいよ!、といえばそれでAVAはだいたい認定される。(Stags Leap Districtが良い例!)

 

または、ご近所に反対者がいなく、もしくは一つの会社しかその土地にない場合、簡単にAVAが取得できる。(Mendocino郡のFetzerというワイナリー単独のAVAや、巨大ワイナリーがむかしマーケティング目的で申請して認定されたけど、今はもう何の意味もないCentral CoastのいくつかのAVAが良い例。

 

・・・・・、悲しいことに、これらのAVAがワインの教科書に未だに記載されているから、ソムリエになりたい純朴な若者がこのナンセンスなAVAを一生懸命に眠い目をこすりながら暗記しなければならないなんて・・・、その姿を見ると心が痛む・・・。とはいえ、私だってその昔は純粋に何の疑いも無しにあのドイツのナンセンス極まりない"集合畑"を暗記したりしたけど・・・。ドイツのワイン法に比べればアメリカのそれはまだマシ!!!)

 

またその逆で、その村八分にあったご近所ともめて認定されなかったのが、Rutherford Benchという場所。

 

これは、反対者、言いかえれば、境界線のほんのちょっと外側のご近所の方々を仲間に入れたくないって申請者が言い張ったからAVAとして成立しなかった。

 

逆にAVAとして認知されるべきなのにされていないワイン産地もある。

 

その土地固有の個性があり、今までの実績を見てもそのテロワールは確実に証明されており、単独のワイン産地に相応しく当然AVAとして認識されるべき場所である。

 

ではなぜAVAのステータスがないのか?

 

一言で言えば、

 

・・・・・・、"別に今さら必要ないから"
もしくは、"メンドーだから"
もしくは、"金の無駄だから"
もしくは、"敵を増やしたくないから"
もしくは、"政治的なトラブルなんてまっぴら"

 

と言ったところだろう。

 

・・・・・。

 

今日は、その"AVAになるべきなのになっていない"ワイン産地を紹介しようと思って書き始めたけど・・・・、もうすでに長くなっているので、また次回にします・・・。

 

という訳で、このブログではAVAに認定されていなくても実質その価値のあるワイン産地は一つのテロワールと見なして紹介していきます!

 

また、明らかに政治的な理由で、もしくはマーケティング目的のみなのにAVAが認定されてしまった無意味なAVAは無視します。ただ、そういった理由で認定されたけど、偶然にもAVAに相応しいテロワールを持っている場合は紹介いたします!

 

ただ、全ては私の独断と偏見に基づいているので、単なる一つの意見として捉えてください。


 

29号線を北へ進み、セントヘレナの街に入り、有名なBeringerというワイナリーの手前を左に曲がり民家を抜けるように進むと、急に道幅が狭くなり斜面を登り始める。その山道を登って行くとSpring Mountain(スプリング マウンテン)という山のAVAに入っていく。

 

ここはナパの西側にある3つの山のAVAの一つで、南にMount Veeder、北にはDiamond Mountainに挟まれちょうど中間に位置する。

 

冷たい海風の入り口にあたるサンパブロ湾から離れている為に温暖でかつ霧が上がってこれない山のワイン産地であるから、カベルネやメルローを主体とした力強い赤ワインが主体になる事は想像に難しくない。しかし、どうも"優等生"的な味わいのワインが多く、今一つここのアペラシオンの個性が掴みきれない。言い換えれば、モダンなスタイルのワインが多く、山らしいワイルドさが削り取られ、丸くなった味わいのものが多く、クオリティは総じて高いのだが面白さに欠ける印象がある。

 

ただ、Philip Togniというワイナリーがあり、ここは山の個性をそのままボトルに移しかえたかのように荒々しいタンニンを感じさせSpring Mountainの山らしい味わいを表現している。お隣のDiamond MountainにあるDiamond Creek Vineyardsと比較すると、タンニンのワイルドさは共通しているが、果実味においてPhilip Togniの方がより豊富にあり骨太なタンニンを包み込んでいるような印象がある。

 

しかし、これはSpring Mountainの個性なのか、それともPhilip Togniの個性なのかはっきりしない。Diamond Mountainにも共通した事だが、その個性をテロワールとして肯定するにも否定するにも他の例が存在しなければ分からない。どちらも質の高いワインが多く作られる場所ではあるが、出来上がったワインが他の産地のカベルネと変わらないのであれば、テロワールを重視する飲み手の心には響かない。

 

しかし、このモダンなカラーが充満しているSpring Mountainで異彩を放つ存在がある。Stony Hillというワイナリーだ。

 

モダンで濃厚なカベルネやメルローが目立つこの産地で、このワイナリーのフラッグシップワインはなんとシャルドネだ。温暖な産地によくありがちな力強く濃厚で樽の甘い香りが支配的なタイプかと思いきや、それとは対照的に非常にエレガントでキレのあるスタイルに仕上がっている。

 

畑は山の中腹に位置するがだいたい北向き斜面が多く山の産地特有の強烈な直射日光はある程度避けられる。(とは言え太陽光線は十分であるが。)かつ西のソノマからの冷たい海風の一部が若干山を越えて下に降りる事から午後になると清々しい風が畑を通過する。これがシャルドネの酸を維持させゆっくりとブドウを熟させる大きな要因となっている。

 

ただ、せっかくその様な環境にあっても、昨今の流行りに乗りワイン評論家から98点を取ることを目指し濃厚になるまでブドウの収穫を待ってしまってはテロワールの個性は消えてしまう。この作り手はそんな誘惑には全く乗らず常にテロワールを意識したシャルドネを造り続けている。カリフォルニアでは歴史が古く1940年代に畑を開墾しワインを造り始めたが、現在に至るまでそのスタイルは一貫して変わっていない。

 

新鮮なリンゴや洋ナシにグレープフルーツの柑橘系の爽やかさが加わり、そこに白い花やミネラルのアロマが溶け込み複雑。新樽は一切使っていない為甘いバニラの様な風味はない。Spring Mountainの太陽に由来する豊富な果実味を十分に感じるがそれを引締めるキレのある酸が痛烈な印象を与える。真夏のほてった体に冷たいシャワーを浴びせた時のようなセンセーショナルな心地よい刺激だ。

 

Stony Hillのシャルドネを飲んだ多くの人は、これはカリフォルニアっぽくないね、ブルゴーニュスタイルだね、と感想を言う。フレッシュな果実味と爽やかな酸、控えめな樽香がそう思わせるのだろう。

 

全く正反対だ。

 

これこそが本来のカリフォルニアのシャルドネの姿だといえる。

 

ブルゴーニュのワイン作りの現在の主流は、ブドウの遅摘み、100%乳酸発酵、バトナージュ(オリ撹拌)、新樽熟成だ。このブルゴーニュ式テクニックを取り入れて作ったのが"モダンなスタイル"のカリフォルニアのシャルドネの方だと言える。

 

ブルゴーニュの製法を取り入れた作り方にカリフォルニアの太陽(と"これが良いとなればとことんやり過ぎるまでやり込む、いたって単純なカリフォルニア人気質!"それとワインメーカーの強欲)がプラスされると、あの濃厚な果実味に派手なイースト香、甘い樽の香りのワインとなる。そしてもれなくワイン評価雑誌から90点台の点数が付いてくる。

 

ブルゴーニュのように太陽に恵まれないが土壌に恵まれたところに適した製法なのだろうが、同じやり方を全く違う環境のカリフォルニアに持ち込んでも肥大化した形に変貌させるだけで似ても似つかない結果を生む。

 

Stony Hillのシャルドネはむしろ昔ながらのカリフォルニアの伝統的製法のワインだ。

 

まずブドウは適度な熟度で収穫する。もちろんしっかりとブドウが熟すまで収穫を待つが、過熟までは待たない。当然、糖度が上がり過ぎる事はないのでアルコールが13%代を超える事はないし甘く不自然な果実味になることもない。基本的には温暖な産地だから酸のレベルを高く保つ事は容易ではなく何とか維持することがより大切だ。よって乳酸発酵をさせて酸のレベルを落とさせる必要はない。また、乳酸発酵の副産物であるバターやヨーグルトなどの香りやバトナージュからくるイースト香をこの作り手は嫌う。あくまでカリフォルニアの太陽が織り成す果実の味わいをそのまま表現したい、というのがコンセプトだ。そのピュアな果実の味わいをマスクしてしまう新樽も当然使わない。ただステンレスではなく古樽を使うのは、ワインに滑らかな食感と無機質なステンレスにはない有機質の木材だからこそ生み出せる複雑な風味を与えたいという事と、代々そうしてきたから、という二つの理由らしい。が、私が聞いた時の印象では後者の理由が大きいようだ。

 

これが伝統的な(80年代までの)カリフォルニアのシャルドネの姿であって、決してブルゴーニュを模倣した作りではない。(一方で樽を全く使用しない"Naked Chardonnay"又は"裸のシャルドネ"、などと呼ばれるワインも出てきており"ブルゴーニュスタイル"又は"シャブリスタイル"などと言われているが全くの誤認識だ。)

 

このスタイルを堅持している作り手は非常に少ないが、このStony Hill以外では、度合いは異なるが、Ridge (Monte Bello)、Mt. Eden (Estate)、Ch. Montelena、Mayacamas、Hanzellなどは今でも昔ながらの古き良きカリフォルニアを感じさせてくれるシャルドネを造っている。驚くほど長命な点も共通していると言えよう。

 

昨今のモダンなカリフォルニアのシャルドネのような派手さはない。しかし、ブルゴーニュを下手に模倣したような表面的なワインでもない。純然たるカリフォルニアの伝統的なスタイルのワインだ。

 

カリフォルニアワインがフランスワインのようになる必要など全くない。カリフォルニアはカリフォルニアらしく有り続けるべきだ。しかし、だからと言って、みんなが派手なハリウッドスターになる必要など毛頭ない。

ナパヴァレーの中心地、Oakville、Rutherfordを抜け29号線を更に北へ進むと両側がブドウ畑から賑やかな商店街へと変わりダウンタウンの中に入る。この辺りがSaint HelenaというAVAの入り口にあたり、そこから車で10分も走れば温泉でも有名なCalistogaに入る。

 

ダウンタウンを抜けて、豪華絢爛なワイナリー、Beringerの前をマイナスイオンたっぷりの並木通りに癒されながら通過すると、だんだんと両側の山脈が中に押し寄せてくるように狭まり平地の面積が小さくなる。

 

当然、平地に植えられるブドウは少なくなるが、このSaint Helena、Calistogaにはナパを代表する高級ワイン又はカルトワインがひしめき合っている。

 

まずSaint Helenaには、Grace Family、Revana、Jones、Vineyard 29、Hourglass、David Abreu(Madrona Ranch、Thorevilos)、Colgin (Cariad、Tychson Hill、Herb Lamb(2007年まで))など、Calistogaには、Araujo、Switchback Ridgeなど、ざっと思い浮かべただけでも、とてつもない面々だ。

 

これらに加え最近では、Seven Stones、Realm、Anomalyなどの新しいワインも高級ワインの仲間入りを果たし高い評価を受けている。

 

では、これら高級ワインを生み出すこの二つのアペラシオンのテロワールはどういうものなのか?

 

RutherfordとOakvilleの項で述べたが、北と南では差はほとんど見いだせない。理論的には、ナパヴァレーでは北へ進むほど平均気温は上がるのだから、CalistogaのワインはRutherfordやOakvilleよりも力強くなるはずだが、決してその様な事は感じられない。

 

しかし、RutherfordとOakvilleの時と同様に東と西で比べれば違いが見えてくる。力強い西日に照らされる東側、特にHowell Mountainとの境界線付近の斜面の畑は山のワインを彷彿とさせる骨太なストラクチャーが印象的なワインとなる。AbreuのThorevilos、ColginのHerb Lambなどはその典型だろう。この二つほど高額ではないが、クラシックなFormanのカベルネもタンニンの骨格がしっかりとしていてこのテロワールを表している。

 

逆に、穏やかな朝日を浴びる西側には、Vineyard 29やHourglassなどが挙げられ、力強い中にもなめらかさ、優美さを呈する。

 

ただ、現在これらのワイナリーがSaint HelenaとCalistogaを代表するワインとして華々しい扱いを受けているが、歴史的にみれば、Spottswoode Cabernet Sauvignon(Saint Helena)とChateau Montelena Cabernet Sauvignon(Calistoga)がそれぞれのアペラシオンの名声を築いた事に大きく貢献したワインとして忘れてはいけない存在だ。

 

Spottswoodeは華やかなSt. Helenaのダウンタウンにほぼ隣接し、畑の周りは住宅地に囲まれている。ボルドーファンならChateau Haut Brionを思い起こさずにはいられないだろう。立地の面でもそうだが、飲めばまさにカリフォルニアのHaut Brionと呼んでも過言ではない。

 

畑は29号線の西側に位置し、ちょうどマヤカマス山脈の麓に位置する。日中はカリフォルニアの力強い太陽をさんさんと浴びるが、ブドウが成熟する時期の午後の4時ぐらいには太陽が西に傾き始めマヤカマス山脈の影にすっぽりと覆われブドウはクールダウンする。また、この山の上部はSpring Mountainという別のアペラシオンになるが、そこに一部凹んだ所がありそこから冷たい海風が侵入し山を下りるようにSpottswoodeの畑に入り込む。

 

これがブドウの酸を維持することを助けゆっくりとブドウが成熟することを可能にする。また、過度にアルコールが高くなりかつ異常なほど糖度や果実味が凝縮することもなくバランスが保てる。

 

出来上がったワインは、熟したカシスやブラックチェリーの豊潤な果実味を呈しまさにカリフォルニアの太陽を感じるが昨今流行りのカベルネの様ないやらしさはない。バランスの取れた酸のお陰でフレッシュさを常に保つ。口中ではしっかりとした骨格を感じるがタンニンは柔らかく山のワインのように決してアグレッシヴな攻撃をしかけない。Howell MountainのDunnを男性的なChateau Latourに例えるなら、Spootswoodeはまさに女性的なChateau Haut Brionと言えるだろう。熟成させれば、カリフォルニアらしい果実味が円熟さを増しながらうまみに発展し、かつクラシックな熟成したカベルネ特有の葉巻や枯葉といった心を落ち着かせる趣ある風味を呈する。

 

一方、CalistogaのChateau Montelenaは1976年のパリ テイスティングにおいて一躍有名になった事は古いカリフォルニアワインファンであれば知っているだろう。

 

シャルドネ対決でブルゴーニュの代表銘柄を打ち破った訳だが、実はこの時のシャルドネはAlexander Valley(お隣のSonoma)とOak Knoll(ナパの南に位置する涼しいアペラシオン)のブレンドでありCalistoga産のブドウではない事はあまり知られていない。現在はAlexander Valley産のブドウは使用しなくなり、Oak Knoll産のもののみで生産しており、涼しい気候のシャルドネらしくエレガントなスタイルだ。

 

この歴史的偉業の為にChateau Montelenaと言えばシャルドネという印象が強いが、実はこのCalistogaで取れたカベルネはまさに伝統的な昔からの(90年代前半までの)カリフォルニアワインの味わいを醸し出す。(シャルドネも同様に伝統的なスタイルを維持している。One Bridge Wine)

 

特にEstate物は長熟であり10年の歳月を経てやっと本領を発揮してくれる代物だ。昨今流行りのモダンな高級カベルネ(特にここのご近所のカベルネ)が若くても飲める事を売りにしているが、それとは対照的にクラシックな作り、長い熟成による深みを楽しみたいのならこのワインはお勧めである。

 

ナパらしい熟したブラックベリー、カシスの凝縮した芳醇な果実味に熟成したカベルネ特有のシガーボックスや枯葉のニュアンスが溶け込む。口中では細かく密度の高いタンニンと、モダンなカベルネには欠如しがちな存在感のある酸がおおらかで膨らみのある果実味を引き締める。

 

ボルドーともモダンなカリフォルニアのカベルネとも異なるカリフォルニアの伝統的な味わいを心から堪能できるだろう。

 

これら二つの歴史あるワインは昨今ではなかなか飲む機会が少なくなってきている。どの分野にも共通した事だが、どうしてもファッショナブルな新しいものに惹かれがちだ。私自身も新しいワインを探し当てればワクワクするし、それが時代の最先端の味わいを呈していれば興奮を覚える。

 

ただ、長い歴史と伝統による変わらないものの奥深さを時よりしみじみと感じたくなる事も事実だ。

 

Saint Helenaの街にはモダンな高級住宅が多くみられ、他の州や国から新しいライフスタイルを求め移住してきた富裕層が優雅に暮らしている。だが、そこにはナパヴァレーがファッショナブルなライフスタイルの象徴になる以前から、昔と変わらずに本来のナパヴァレーの生活を楽しみながら静かに暮らしている人も少なくない。

 

トスカーナスタイルの派手な屋敷のプールサイドのテラスで超高級ワインを手渡され、豪快にビジネスの成功話や贅沢なライフスタイルの話を聞けば圧倒されるワクワク感がある。

 

しかし、昔ながらのナパヴァレーの、又はカリフォルニアの昔からある田舎暮らしのライフスタイルを、古びた暖炉の前で安物のジンファンデルを片手に聞くと、熟成したSpottswoodeやChateau Montelenaのような、ホッ落ち着かせてくれる奥深さが心に染み込む。

ナパの南から29号線を北上しOak Knollを超えた次の産地がYountville(ヨントヴィル)だ。ワイン作りとしての歴史は古く、あまり知られていないが、カリフォルニアワイン史には欠かせない存在であるGeorge Yountがナパで初めてワイン用のブドウを栽培した地域であり、(Yountvilleという名はGeorge Yountに由来する。)ナパヴァレーにとっては聖地と言っても過言ではない。

 

ただ、現在において、ここはワイナリーの数も少なく(Domaine Chandonぐらいしか視界に入るワイナリーはない。)、むしろ、きれいなショッピングモールや公園、そして何と言ってもアメリカが世界に誇る三ツ星レストラン、フレンチ ランドリーがある街として名が通った地域だろう。

 

だが、イメージこそそれ程大きくはないが、独特のテロワールを持ち個性豊かなワインを生産する地域として重要な位置付けに値するワイン産地だ。

 

気候は、ナパの南に位置する事からSan Pablo湾からの冷たい風の影響を受け、また午前中は濃い霧に包まれる為に比較的涼しい。

 

更に29号線を北に走りこのYountvilleを抜け出る直前に小高い丘が東に見えてくる。この先がナパヴァレーの、又はカベルネの産地として中心のOakvilleになるが、この丘を境として気候も変わり温暖になる。

 

つまり、このYountvilleの丘がナパの気候の分岐点となり、ここより北と南では全く違った気候に変わると言っても過言ではない。

 

涼しい気候を持つYountvilleでは、当然涼しい気候に適した品種、シャルドネの生産量が多い。ただ、Yountvilleがアペラシオンとしての(マーケティング的)強さが小さい為、ブレンドとして使われるケースが多い。

 

涼しい気候でも熟し易いメルローも多く栽培されており、Blankietと言ったカルト的なワインも最近は話題となり注目を集めている。

 

ただ、この地で私が最も印象深いブドウはカベルネ ソーヴィニオンだ。

 

カベルネ ソーヴィニオンは温暖な気候を好み、事実、ナパでも中央から北、つまり温暖な気候を持つ地域に集中し一般的な評価も高い。温暖が故にカベルネをしっかりと熟させてくれる気候であり優等生的なワインが多いが、ややもすれば個性のないワインが多くみられる事も事実だ。実際、ここから北のOakville、Rutherford、Saint Helena、Calistogaでは、ワインを飲み比べてもなかなか各アペラシオンの違いを掴むのは困難だ。

 

それに対し、このYountvilleのカベルネは、まさにYountvilleらしさの感じられるワインが多くみられる。

 

涼しい気候なだけに、皮の厚いカベルネを簡単には熟させてくれない。一歩間違えば、青臭いピーマンの香りだらけのやせ細ったワインとなってしまう。同様なことがボルドーでも起こるが、そのボルドーのある生産者の言葉を借りれば、"人生と一緒で困難な事がなければ本当に偉大なものは造り得ない"とも言える。少しナパヴァレー(の中心から北)を皮肉った言い方だが、あながち大げさにも聞こえない。

 

このカベルネを造るにはギリギリのラインであるここYountvilleだからこそチャレンジが生まれ、だからこそ偉大且つ個性的なワインが生まれているとも言える。

 

果実味は黒系のベリーが中心だが、ジャムのような甘い香りとは無縁で透き通った新鮮さ、みずみずしさを表す。涼しげなハーヴに杉や鉛筆の芯などの旧世界的なニュアンスを呈し複雑。口中では、カリフォルニアの太陽を浴びているだけに肉厚だが、涼しい気候に由来するバランスの取れた酸が全体を引締めてくれる。この酸が若い時にタンニンと重なると若干収斂性(しゅうれんせい)を感じる。"ユーザー フレンドリー"なとってもアメリカらしい一般的なカリフォルニアワインとは一線を画した特徴の一つだ。

 

Grgich Hillsはシャルドネで有名だが、このYountvilleのカベルネを使いこのテロワールをきれいに表現したワインを造っているし、モダンな造りでカルト的なイメージのあるGemstone、Ghost Block、Kapcsandyでさえ、このYountvilleらしいテロワールを感じられる、重厚だがフィネスを呈したワインを産する。

 

だが、やはりこの地の代表的な存在はDominusだろう。

 

多くのワイン好き達がボルドーを代表する造り手、Ch. Petrusの当主がオーナーであるナパの高級ワインとして認識している。

 

Dominusは83年が初ヴィンテージだったが、当初は荒々しいタンニンとグリーンな(青っぽい)風味が際立ってしまいアメリカの評論家からは厳しい評価をもらい、飲み手からも長期熟成が必要なワインでカリフォルニアワインらしくない、との批判が多かった。90年代に入りやや穏やかなタンニンになりグリーンな風味も落ち着いた感があるが、それでも他のワインと比べるとまだまだ熟成が必要な気難しいタイプのワインだと言える。

 

この個性を、フランスのCh. Petrusが造るから、"フレンチーな(Frenchy)(フランスっぽい、フランスかぶれな)"ワインだと嫌味っぽく揶揄されるが、これは決してそれが大きな理由ではない。

 

涼しい気候、カベルネを育てるにはギリギリの気候条件のYountvilleだからこそ、この様なスタイルが生まれ、テロワールを大切にするCh. Petrusだからこそ、その個性を台無しにすることなくそのまま表現しているのだと言える。

 

つまり、このDominusの個性こそがYountvilleの個性であり、そのDominusの個性を批判するというのは、涼しい気候のワインに暖かい気候のワインの個性を求めているようなものだ。実際、そういう評論家やワイン好きが多いが、その割には、二言目には"ワインはテロワールが大事"などと付け加えるから困りものだ。

 

ただ、Dominusよりも先に述べたGemstoneを好むというのは、フレンチ好きに分かり易く言えば、PetrusよりLe Pinを好むと言っているのと同じで、要は"伝統派"か"モダン派"かの違いであり、違う次元の議論になる。

 

また、Dominusはフランス人が所有する高級ナパワインという事で、同じカテゴリーのOpus One(Ch. Mouton Rothschild)とよく比較される。

 

Opus Oneも当初はボルドーの様な堅さがあるスタイルだったが、最近は見事にアメリカ人受けが良いワインに変貌してきた。生産量も、一見少量生産に見えてしまうが、2万ケースと高額ワインとは思えない程多く造っている。(Dominusは4000ケース)Opus Oneは単一畑の印象が強いが、この生産量を考えれば当然だが、一つの畑では足りる訳がないのでナパヴァレーの各地からブドウを集めている。

 

Ch. Mouton Rothschildがあるのはジロンド川の左岸でMedocと呼ばれ、かつてイギリス支配からワイン文化というよりは商業的なワインビジネス、ワインマーケティングが発達した地域であるのに対し、Ch. PetrusのあるPomerolは右岸であり、Medocとは正反対の商業とは無縁の農家の頑固おやじ達が育てたワイン文化の印象がある。(世界中に共通した事だが、川向こうの村と仲が良い村は存在しない。)

 

つまり、マーケティングのパワーにより作られた名ばかりのイメージとしてのテロワールかその土地の個性を純粋にワインに移しこんだ本来のテロワールの違いと感じられる。

 

Opus OneはMoutonとはマッタク違った味わいのワインだ。同様にDominusもPetrusとはマッタク違った味わいのワインだ。だが、Opus OneとDominusの"印象"の違いは、どうしてもMoutonとPetrusのそれと重なってしまうのは考え過ぎだろうか。

 

そして、同じ印象の違いをOakville(Opus Oneがある場所)とこのYountvilleの印象の違いに連動させてしまうのは・・・、同様に考え過ぎとの感もあるが、ワインを飲んだ印象を考えると、それ程行き過ぎた論議とは思えない。

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千葉和外 Kazuto Chiba
千葉和外 Kazuto Chiba

1972年6月生まれ。
92年 都内フレンチレストランに入店。ウェスティンホテル東京を経てカリフォルニア州ナパヴァレーカレッジ修了後「オーベルジュ ド ソレイユ」に入店。07年帰国後、西麻布「サイタブリア」シェフソムリエとして2年半勤め、現在は麻布十番のフレンチレストラン「Hortensia(オルタシア)」にてチーフソムリエを勤める。

The Court of Master Sommelier認定Advanced Sommelier
第六回全日本最優秀ソムリエコンクール セミファイナリスト

ワインスクール アカデミー デュ ヴァン講師 アメリカワインクラス担当

hortensia

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