American Wine Journey::カリフォルニアワイン、アメリカワイン紀行ブログ

熟成するワインが素晴しいワインだ、もしくは素晴しいワインは熟成する、という偏った概念がワイン界には根強く存在する。

 

ただ、私の素晴しいワインの概念は、"他の場所では造りえない独特の個性を持つワイン"であり、熟成するかどうかは問題ではない。

 

熟成した上質のボルドーは素晴しいワインだ。しかし、それは熟成するからではない。他の場所では造りえない独特の個性を持つからであり、それを呈するのに"熟成が必要"なだけである。

 

言い換えれば、熟成せずにあの独特の個性が出たとしても、それは素晴しいワインと呼ばれるに違いない。

 

さて、前置きが長くなったが、今回紹介したいワイン産地は、Alexander Valley(アレキサンダー ヴァレー)というSonoma郡のAVAだ。

 

ほとんどの観光客は、Napaの29号線を北に進み、Napa最北のダウンタウンCalistoga(カリストガ)にぶち当たった時点で、さもここが最終地点であるかのようにUターンしてしまう。

 

ところが、29号線を更に北に進み、128号線に名前を変えたその道を30分ほど進み山を一つ越えただけで、観光化されたナパとはまったく様相を異にするワインカントリーの姿を垣間見る事ができる。

 

のどかに流れるRussian River(ルシアン リヴァー)の両岸になだらかにワイン畑が連なり、その川ののどかな流れそのものを移しこんだような、優しくなめらかなワインを産する。

 

様々なブドウが栽培されているが、この地の特徴を鮮やかに表現しているのはCabernet Sauvignon(カベルネ ソーヴィニオン)と、Zinfandel(ジンファンデル)だろう。

 

共通していえる個性はその"滑らかさ"にある。だからと言って決して線が細くよわよわしい訳ではない。また、果実の凝縮感はあるが丸みのあるタンニンのお陰でNapaのワインの様な攻撃的なアタックを感じることもない。

 

Napaではその力強いタンニンをどうやってまろやかに仕上げるかが大きな課題であるのに対し、このAlexander Valleyではまずその心配が要らない。

 

前者が野生動物で後者が飼いならされた動物だ、と私のナパヴァレー時代の上司のソムリエがよく言っていたことを思いだす。

 

ただ決してネガティヴな事ではなく、肯定的にこれはAlexander Valleyの個性と捉えるべきだ。

 

この地の代表的な作り手である、Robert YoungのScionというカベルネのブレンドやSimiのReserveはその個性をありのままに表現しているワインだと言えるだろう。

 

ただ、これらのワインはそのなめらかなタンニン故に長期熟成はあまり期待できない。

 

では、これらは素晴しいワインとは呼べないだろうか?

 

そんな事は決してない。

 

ここで冒頭の定義に戻るが、素晴しいワインとは他の場所では造りえない独特の個性を持つワインだ。

 

この個性は他の地ではまず出てこない。

 

NapaのStags LeapはNapaの中で最も女性的でありなめらかなテクスチャーを持つが、中心に硬い芯がバックボーンとして走っている点において趣を異にする。

 

まだ紹介していないが、もっと南のPaso Robles(パソ ロブレス)のカベルネもなめらかではあるが、もっと果実味が濃密になりAlexander Valleyの上品ななめらかさとは性格が異なる。

 

つまりこのデリケートななめらかさはこのAlexander Valley特有のテロワールから来る個性だと言えるだろう。

 

ソノマの北部に位置しかつ内陸にある為、海風や霧の影響を受けにくい。その為平均気温はもっと内陸のナパの北部とさほど変わらない。では、ナパのカベルネと同じぐらいの凝縮感がでてもよいのではないか?

 

大きな違いは、Alexander Valleyの土地はかなり肥沃な所が多いという点だ。その為樹勢が強く、かなりシビアにプルーニング等を行わないと出来上がったワインはかなりベジタルな味になるだけでなく、タンニンの骨格の全くない弱弱しいワインになってしまう。

 

ただ、生産量を抑え、樹勢をコントロールしブドウを十分に熟させる努力を惜しまなければ、ナパのカベルネと変わらないぐらいの熟度のある果実味を得ることができる。ただナパとの大きな違いは、タンニンのやわらかさとそれによる触感の滑らかさだ。

 

また、この個性はカベルネだけでなくZinfandelにも共通しており、あまり知られていないがSausalという作り手の樹齢100年のReserveには、ブドウ品種が異なるにもかかわらず、上記のSimiのReserveやRobert YoungのScionに共通した上品でデリケートななめらかさが存在する。

 

これらのワインはボルドーの様な長期熟成はしない。リリースされて間もなく、もしくは数年でこの素晴らしい他の地では作り得ない独特の個性を綺麗に呈してくれる。

 

ならば熟成させる意味などない。熟成させると個性が消えて無くなるなら若いうちに飲んだ方がよい。逆にボルドーの上質なワインは、若いと個性が見えないから熟成させた方がよい、と言える。

 

熟成するから素晴しいワインなのではない。

 

これらAlexander Valleyの素晴しいワイン達は、たまたま熟成を必要としないだけだ。

 

Page Top
profile

千葉和外 Kazuto Chiba
千葉和外 Kazuto Chiba

1972年6月生まれ。
92年 都内フレンチレストランに入店。ウェスティンホテル東京を経てカリフォルニア州ナパヴァレーカレッジ修了後「オーベルジュ ド ソレイユ」に入店。07年帰国後、西麻布「サイタブリア」シェフソムリエとして2年半勤め、現在は麻布十番のフレンチレストラン「Hortensia(オルタシア)」にてチーフソムリエを勤める。

The Court of Master Sommelier認定Advanced Sommelier
第六回全日本最優秀ソムリエコンクール セミファイナリスト

ワインスクール アカデミー デュ ヴァン講師 アメリカワインクラス担当

hortensia

フレンチレストラン「オルタシア」(麻布十番)のページはこちら